2017年11月09日

皆様、はじめまして田中研之輔と申します。

私は東京の「変化」に着目して都市分析を行っています。
人びとの行動を空間的に捉え、多面的・多角的に洞察していくことで、東京の今に迫ることを続けています。

 人びとの行動を空間的にとらえる際には、2つの眼を使い分けます。
一つは、東京での働き方や暮らし方を<人びとの生活空間から捉える眼>です。
もう一つは、人びとの生活空間を構成している<東京をまるごと捉える眼>です。
このどちらの眼も欠かすことはできません。

 このコラムでは「変化」を切り口にして東京の魅力を浮かび上がらせていきます。

 第一回目の今回は、
「人口の変化からみえてくる東京」
についてみていきます。

 日本の人口は減少しています。平成22年から平成27年の五年間で人口が増えた都道府県は、全国でたった8都県です。

 2.9% 人口増加した沖縄県が全国一位で、東京は2.7%の増加で全国二位です。東京は平成17年から22年では4.6%の人口増加があり、全国一位でした。
 
 より詳しくみてみると、平成28年1月1日現在における東京都の住民基本台帳による人口は、日本人と外国人を合わせた人口総数か゛13,415,349人です。
前年に比へ゛117,763人(0.89%)増加しています。

 そのうち日本人 は12,966,307人、外国人は449,042人です。
前年に比へ゛日本人は86,163人(0.67%)、外国人は 31,600人(7.57%)増加しています。
(出典:http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2016/jy16qf0001.pdf

 ここでまず言えることは、東京は「依然として人口を増加し続ける<成長都市>」であるということです。

 人口の増加は、人びとのライフスタイルに多様性をもたらし、経済活動の活性化も促す都市の成長源です。大阪府も人口減少している今、東京は日本の成長を担っているといっても過言ではありません。

都道府県別人口増減率(平成17年~22年、22年~27年)
 出典: http://www.stat.go.jp/info/guide/asu/2017/pdf/asuall.pdf

「人口増加し続ける成長都市:東京」

 東京は他の都道府県と比較して、65歳以上人口の割合が低いことも特徴です。

秋田県では33.8%が65歳以上人口で、41都道府県で25%以上です。
東京は22.7%で沖縄に続いて二番目に65歳人口の割合が低い都市です。

 65歳以上人口が22.7%は、けっして「若い都市」とはいえませんが、今回はその点には深入りしません。生産人口が流入している動向に焦点をあてていきます。
 

 65歳以上人口の都道府県別割合
 出典: http://www.stat.go.jp/info/guide/asu/2017/pdf/asuall.pdf

 出典:http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2016/jy16qf0001.pdf

 人口増加を続ける東京ですが、東京の内部では随分と明確な差が生まれています。
図1は人口の総数によって色分けされています。オレンジ色のエリアに人口の集中がみられます。
 東京の人口増加は、千代田区、中央区、港区、新宿区などの経済や政治の中枢区をとりまく東京23区内への集中によってもたらされていることが一目瞭然です。

 出典:http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2016/jy16qf0001.pdf

 次に生産年齢の人口割合をみていくと、より顕著に集中地区が確認できます。
70%以上となっているのが、豊島区、中野区、新宿区、渋谷区、中央区の5区です。このエリアは外国人の居住者流入も多くみられます。

出典:http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/2016/jy16qf0001.pdf

 また、人口ピラミッドを比較すると、東京に住む外国人の大半が、生産人口で構成されていることがわかります。
外国人居住者はまだまだ、人口数が少ないのでこの人口ピラミッドをそのまま東京の潜在力として捉えることはできません。
 
 人口増加と(一定地区への)人口集中は、都市の変化を捉えるときの重要な視点となります。都市研究者のクロード・フィッシャー教授は、人口の増加と集中と人びとの多様性が、新たな文化的な活動を生み出す(クロード・フィッシャー 『都市的体験』1996 未来社)と述べています。

 この解釈を東京の現状にひきつけて応用させると、人口の増加と集中、ならびに外国人の居住も増加にある山手線をとりまく23区の外周地区では、新たな胎動が生まれやすいといえます。

 フィッシャーが述べるところの文化的な活動に留まらず、経済的なイノベーションやライフスタイルのトレンドも生まれる拠点なのです。新たな胎動を生み出し続けるエリアは、人びとの関心を引き寄せます。国内からも海外からも流入人口を増加させる文化的な要因でもあるのです。

 一極集中や地方との地域間格差ということで東京の人口集中がややもするとネガティブに捉えられる傾向にあります。

 しかし、東京23区内の限定的な空間の潜在力を増幅させ、イノベーショナルな胎動を生み出し続けていくことは、人口が減少し経済が縮小していくとされるこの国の起爆剤でもあるのです。

 東京をまるごと捉えた眼でみてみると、人口増加と人口集中が<東京のごくかぎられた一部のエリアで起きていること>が改めて確認できました。

 続く、第二回ではその内部で何が起きているのかについてみていくことにします。


田中 研之輔氏(社会学者)

1976年生まれ。法政大学教授 博士(社会学)。一橋大学大学院修了。日本学術振興会特別研究員(DC/PD:一橋大学 SPD:東京大学)。メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を歴任。
<変化>に着目した「空間-行動」分析を得意として、<東京>の魅力分析を続けている。著作には、『都市のリアル』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』『先生は教えてくれない大学のトリセツ』『覚醒せよ、わが身体』他。セミナーや講演会数も多数。個人でも投資を行い、企業顧問もつとめる。株式会社ゲイト社外顧問。