<変化>で読み解く東京の魅力コラム(5) 

飯田橋にある大学に通勤するようになり10年が経ちました。この間に感じる変化の1つに、「コンビニ店員の外国人化」があります。

数年前は韓国籍や中国籍の留学生がレジを担当するようになりました。この1~2年では、ネパール人やベトナム人と思われる名前の店員がレジ打ちをしてくれます。
外国籍アルバイトが24時間営業のコンビニを支えている、というのは今や東京ではありふれた日常の光景になりました。

そこで「変化」で読み解く東京の魅力、第5回の今回では、
「東京で暮らす・働く外国人」に焦点を当ててみることにします。

これまでのコラムでも少子高齢化時代突入したこの国の人口動態の中で、東京は依然として人口増加を続けている稀有な「成長都市」であるということを確認してきました。その点を踏まえて、東京の成長に、外国人がどう関わっているのかを考えていくことでもあります。

まず、法務省入国管理局が発表した平成29年末在留外国人数(表1)を見てみると、現在、日本国内には、約256.1万人の外国人の方々が暮らしていることがわかります。都道府県別で在留外国人数が最も多いのは、東京都で約53.7万人が住んでいます。
東京都に次いで在留外国人が多いのが、愛知県で、続くのが、大阪府です。愛知県には約24.2万人、大阪府には約22.8万人弱の外国人が生活をしています。

表1 都道府県別在留外国人数の推移
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( http://www.moj.go.jp/content/001256897.pdf 

東京の人口変化と東京に住む外国人居住者数のデータを比較すると興味深い事実が浮かび上がってきます。この数値から言えるのが、「在留外国人の1/5が東京で暮らしている」ということです。
さらに、平成25年末には40.7万人だった人口が、翌年の平成26年末には43万人、それ以降も年々増え続けています。 

図1 東京都の総人口と在留外国人人口の推移
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http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/chiiki_tabunka/tabunka/tabunkasuishin/files/0000000755/shishin2.pdf

 東京都生活文化局がまとめた人口推移では、東京都の総人口は、20年前と比較して約15%の増加であるの対して、在留外国人は約70%増加しています。2011年の東日本大震災の影響で、2012年と2013年の2年間は、減少傾向がみられたが、その後は、毎年増加傾向にあります。1350万人が生活するメガシティ東京の53.7万人と絶対数での存在感はまだまだ、少ないものの、相対比率でみて約70%の人口増加を遂げている「変化」は目を見張るものがありますね。
 世界都市と比較して、リビングコストの高い東京で暮らす外国人が増えている背景には、(1)外国人労働者数の増加と (2)留学生数の増加があります。

図2 東京都における外国人労働者数の推移
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 外国人労働者数は、毎年、顕著に増加しています。外国人労働者は、人口成長を続ける東京の安定した供給源でもあるのです。それでは、国籍別を見てみましょう。

図3 国籍別在住外国人の割合(東京都)

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http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/chiiki_tabunka/tabunka/tabunkasuishin/files/0000000755/shishin2.pdf

 国籍別の在留外国人構成比もこの30年の間に、大きく2つの点で変化が見られますね。
1つは、57.2%と東京に住む在留外国人の半数以上を占めていた韓国・朝鮮籍の外国人が20.8%まで相対的な比率を下げ、その間に、中国籍の外国人が41.4%まで急増しています。もう1つは、フィリピン、ベトナム、ネパール、インド、タイといったアジア圏の外国人が増えています。
 アジア圏からの外国人労働者人口が増えている傾向と同時に、高度人材の増加も合わせて見ておく必要があります。

図4 高度人材・留学生の推移(東京)
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http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/chiiki_tabunka/tabunka/tabunkasuishin/files/0000000755/shishin2.pdf

図5 高度人材・留学生の都道府県別割合

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 このように、東京で暮らす在留外国人の増加は、企業で働く高度人材と大学等で学ぶ留学生の「集中」によって引き起こされているということが確認できます。(「東京で学ぶ大学生・留学生」については次回のコラムでとりあげていきますね。)
一点ここで確認しておくべきなのは、東京で暮らす外国人労働者は、専門・技術分野を活かして働く高度人材、非技術分野で働く労働者とで社会階層が二極化しているという点です。この二極化した社会層が、今後、東京でどう交わるのかについては丁寧に追跡していきたいと思います。

 とはいえ、ここではひとまず、この高度人材とアジア諸国からの外国人労働者の流入が、少子超高齢化していく東京の年齢構成にとって明るい材料であることを図6の年齢別構成データでおさえておきましょう。生産人口の20代から40代の人口ボリュームが多く、企業の人材不足の一助となっていることは間違いありません。

図6 都人口・都内外国人人口の年齢別構成 (2015 年 1 月現在)
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http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/chiiki_tabunka/tabunka/tabunkasuishin/files/0000000755/shishin2.pdf

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(筆者作成)

 23区別でみると、新宿区は増加傾向にあり、近年では江戸川区で在留外国人が増えています。さらに、在留外国人が局所的に集住する傾向も顕著になってきています。高度人材は、渋谷区、港区、などで生活しているものと見られます。
つまり、先にみた、高度人材とアジア諸国からの外国人労働者が、どのエリアで集住し、生活をしているかに着目していくことは、今後の東京を見定めるのに外すことのない着眼点の1つになるのです。

 これまでみてきたように、在留外国人の増加は、(1)社会階層の二極化(2)国籍別の空間的集住をもたらす傾向にあります。これは他のグローバル都市でも同じように社会階層と空間的集住は確認されます。それが単純な「分断」とならないような寛容さを、未曾有の少子超高齢化都市の東京が持ち続けていけるのかは、興味深い点ですね。

 空間的集住は、生活インフラの安定と拡充にもつながるので、新たな外国人労働者のプル要因になります。ただし、それは何か問題が起きた時に、そのエリアが空間的なスティグマ化(*例えば、危険地区というように)を引き起こすリスクを内包することも意味します。

 在留外国人の増加からみえる社会と空間の「変化」から、文字通り、グローバル都市として生き残っていけるのかの分岐点に今、東京が直面しているということを私たちは改めて気がつかされるのです。

そして、日常の一コマで感じる東京の「変化」とは、単なる在留外国人の増加というだけでなく、新たな社会階層の構成と空間的集住の形成過程で立ち現れる、生きられる東京の極めて社会的な事象なのです。

田中 研之輔氏(社会学者)

1976年生まれ。法政大学教授 博士(社会学)。一橋大学大学院修了。日本学術振興会特別研究員(DC/PD:一橋大学 SPD:東京大学)。メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を歴任。
<変化>に着目した「空間-行動」分析を得意として、<東京>の魅力分析を続けている。著作には、『都市のリアル』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』『先生は教えてくれない大学のトリセツ』『覚醒せよ、わが身体』他。セミナーや講演会数も多数。個人でも投資を行い、企業顧問もつとめる。株式会社ゲイト社外顧問。